ゾル−ゲル法によるエルビウムイオン含有酸化物膜の作製とその蛍光特性に関する研究

前田宣子

重金属酸化物ZrO2およびTa2O5はフォノンエネルギーが低いため,これらを母体材料に用いるとエルビウムイオン(Er3+)などの希土類イオンの蛍光が強くなることが期待される.ゾル−ゲル法は,希土類イオンを母体材料中に均一に分散させることができ,蛍光特性の向上のために有効な方法である.本研究では,ゾル−ゲル法を用いてEr3+含有ZrO2膜,Ta2O5膜,およびAl2O3-Ta2O5膜を作製し,Er3+の4f電子遷移に基づくダウンコンバージョンおよびアップコンバージョン蛍光を,高分解能ラマン分光測定装置を用いて測定し,Judd-Ofelt理論により解析した.

0.5Er2O3-100ZrO2膜において,緑色(515-570 nm)および赤色(640-680 nm)蛍光は,大きく2本に分裂した.これはEr3+サイトの分布が大きいためと考えられる.緑色アップコンバージョン蛍光の強度は,正方晶ZrO2中で小さく,立方晶への相転移に伴い増大した.これは,正方晶ZrO2中ではEr-O結合がイオン結合的になるため,アップコンバージョン励起機構における励起状態吸収(ESA)が減少し,一方,立方晶ZrO2中ではそれが共有結合的となりESAが増加したためと考えられる.

1Er2O3-100Ta2O5膜では,出発溶液に添加した加水分解抑制剤ジエタノールアミンまたはジイソプロピルアミンの,膜厚,結晶化,および蛍光特性などへの影響について検討した.非晶質膜では,前者を用いた場合,残留有機物が多くダウンコンバージョン蛍光は観測されなかったが,後者を用いると残留有機物が減少しダウンコンバージョン蛍光が観測された.一方,結晶化膜では,ジエタノールアミンを用いるとジイソプロピルアミンの場合より膜厚が厚くなり(約1 m),強いダウンコンバージョン蛍光が観測された.結晶化によってダウンコンバージョン蛍光強度は増加したが,アップコンバージョン蛍光強度は減少した.これは,結晶化によりEr3+サイトの対称性が増加し,またEr-O結合がイオン結合的となることによって,ESAが減少したためであると考えられる.

1Er2O3-x Al2O3-(100-x )Ta2O5膜では,x の値の増加によって結晶化温度が800℃から1000℃まで上昇した.x = 4の1000℃で熱処理した結晶化膜において,Ta=-結合サイトの増加によりEr3+の溶解度が上昇し,ダウンコンバージョン蛍光強度が増大した.x = 75の800℃で熱処理した非晶質膜では,残留有機物が少なくESAが起こりやすい非晶質Ta2O5が生成したため,アップコンバージョン蛍光が強くなった.また,Ta2O5の結晶化により,赤外(1500 nm)ダウンコンバージョン蛍光の半値幅が広がり(約95 nm),導波路型光増幅器への応用が期待される.