ミドリゾウリムシ共生関係における宿主と共生者間の相互作用の解析
−日本産共生藻無菌株の確立と宿主抽出液の影響−

鎌戸 伸一郎

淡水原生動物ミドリゾウリムシはクロレラ様藻類を細胞内共生させており、宿主と共生藻を分離できることから共生の研究に用いられてきた。共生藻の性状は自由生活型クロレラとは異なり、また、欧州産と米国産共生藻の間でも異なっているが、日本産共生藻は無菌株の取得自体が困難とされ、性状は不明であった。

まず、日本産共生藻無菌株の確立を目指して、日本産ミドリゾウリムシ細胞を破砕し、硝酸塩を唯一の窒素源とする藻類用寒天培地に塗布した。肉眼で認識できるほどに生育した藻のコロニーは全て細菌が混在していたが、短期間の培養では顕微鏡下で無菌状態の極小コロニーが観察できたことから、これを有機窒素化合物を含む種々寒天培地上に画線した。その結果、バクトペプトン添加培地で無菌株の培養に成功し、DGGEなどの結果から細菌が混在していないことを確認して、日本産共生藻無菌株を初めて確立した。増殖に硝酸塩を利用できないことから窒素源の検討を行い、L-セリンなどの一部のアミノ酸を単一窒素源として増殖可能なことを見出した。また、硝酸同化関連酵素の検討を行い、欧米産共生藻とは異なり日本産には硝酸還元酵素活性が認められないことから、日本産共生藻が欧米産のものよりも宿主への依存性が高いことを示した。

つぎに宿主と共生藻間の物質を介した関係を解析すべく、14C標識CO2を用いて宿主抽出液の共生藻光合成への影響を検討した結果、宿主抽出液の添加濃度に応じて藻体内炭素固定量が増加するという極めて稀な現象を見出した。宿主抽出液中の炭酸除去などの確認実験と再現性実験を繰り返し、宿主抽出液中の何らかの物質(宿主因子)が共生藻の炭素固定を亢進すると結論した。宿主抽出液による藻の炭素同化の亢進は自由生活型クロレラでも確認でき、種特異性は認められなかった。また、宿主抽出液の熱処理、限外ろ過、ODS処理の結果から、宿主因子は熱に安定な分子量5,000以下の水溶性物質と推定した。一方、海洋の共生関係で報告のある宿主抽出液による光合成産物の放出量の増加は認められなかったが、日本産共生藻の光合成産物の放出量は欧米産と同様に弱酸性側で増加することを明らかにした。

以上の結果から、日本産共生藻はミドリゾウリムシ細胞中の共生胞内で、1)窒素源による生育、2)宿主因子による炭素固定、3)pHによる光合成産物放出の制御を宿主から受けていると推論した。