サーモライシンの安定性に関する研究

松宮 芳樹

サーモライシン(TLN、EC3.4.24.27)はBacillus thermoproteolyticus 及びB. stearothermophilus が産生する中性プロテアーゼであり、高い耐熱性を示すことからモデル酵素として幅広く研究され、工業面ではアスパルテームの合成等に用いられている。TLNは80 ℃では主に自己分解により失活することが知られており、また安定性に寄与している4つのCa2+(Ca-1、-2、-3、-4)を有している。本研究では、安定性に密接に関与している自己分解及びCa2+に対する結合について分子生物学的手法を用いて解析し、安定性の向上した変異型TLNの創生を目指した。

SDS-PAGE及びN末端シークエンスにより、TLNの自己分解点4つを決定し、Bacillus 属由来中性プロテアーゼファミリーの非保存領域に存在していた自己分解点Leu155をXaa(Ala、Ser、Phe、Gly)に置換した変異型TLN(L155A、S、F、G)を作製した。いずれの変異型TLNも耐熱性が向上しており、Gly154-Xaa155での切断は確認されなかった。しかし、新たにXaa155-Ile156で自己分解されていた。

そこで更なる安定性の向上を目指し、最も耐熱化したL155Aを基に、新たな自己分解点であるIle156をAla、Asn、Valに置換した変異型TLN(L155A-I156A、N、V)を作製した。その結果、いずれの変異型TLNにおいてもL155Aよりさらに耐熱性が向上し、そのAla155-Ile156での自己分解は大幅に抑えられていた。これらのことから、自己分解点改変は、プロテアーゼの安定化に有効であることが示された。

また、Bacillus 属由来中性プロテアーゼファミリーの保存領域に位置する自己分解点に変異を導入したGly127欠失変異体(127)、Met205→Pro(M205P)、Pro208→His(P208H)を作製したところ、これら変異型TLNは5mM CaCl2存在下のみ培地中に活性が認められた。また、透析実験においては、WTやL155Aと比べCa2+への依存性が高まっていた。これら変異導入部位はCa-1、-2、-4結合部位近傍に位置し、これらの保存領域はCa2+保持に重要な役割を果たしていると考えられた。

一方、ランダム変異導入法によりTLNの耐熱性を向上させるため変異を導入したところ、WTよりもCa2+依存性が低い変異型TLNが取得できた。本変異はIle39→Phe(I39F)であり、保存領域に変異が導入されていた。この部位はCa-3結合部位近傍に位置しており、Ca-3結合部位周辺の改変は、保存領域でもTLNの安定化に有効であることが示唆された。