自動車用エンジンオイルの微生物分解に関する研究 −長鎖炭化水素分解メカニズムの解析−

駒 大輔

石油系炭化水素による汚染は、長期間にわたり続くことが知られており、近年それらのバイオレメディエーションに関する研究が注目を集めている。自動車用エンジンオイルは、炭素数16−36程度の脂環式炭化水素を主とする長鎖炭化水素より構成されており、その流出油は自然環境中では極めて分解されにくい。加えて、自動車用エンジンオイルのような長鎖炭化水素の分解や脂環式炭化水素の分解は解明されていない。そこで、本研究では、自然界よりエンジンオイルをよく分解する微生物を分離し、その分解メカニズムを解析することを目的とした。

使用済み自動車用エンジンオイルおよび自動車用エンジンオイルの各画分を用いて、自然界よりエンジンオイル分解菌のスクリーンングを行った。約400の土壌および水圏サンプルから、36株のエンジンオイル分解菌を分離し、それらを16S rDNA解析および生化学試験により同定した。分離した菌株の多くはAcinetobacterRhodococcus、およびGordoniaに属するバクテリアであった。

分離されたエンジンオイル分解菌の内、比較的高いエンジンオイル分解能を示した3つの異なる属の菌株(Acinetobacter sp. ODDK71、Rhodococcus sp. NDKK48、およびGordonia sp. NDKY76A)について、エンジンオイル分解能や炭化水素分解能について詳細な解析を行った。Acinetobacter sp. ODDK71株は、エンジンオイルのノルマルパラフィン画分を非常によく分解したが、ナフテン画分はあまり分解しなかった。また、本菌株は炭素数12−30のアルカンを非常によく分解した。ODDK71株のアルカン分解における最適炭素数は24であることが示唆され、エンジンオイルのノルマルパラフィン画分の平均炭素数(23.4)とほぼ一致した。種々のシクロアルカンは単一では分解しなかったが、側鎖に12以上のアルキル基を持つアルキルシクロヘキサンを直鎖状炭化水素との共酸化により分解した。GC/MSやIRを用いた解析から、本菌株のアルキルシクロヘキサンの分解は、「側鎖の酸化」と「環の酸化」により行われていることが明らかとなった。特に、環の酸化経路は微生物のアルキルシクロヘキサンの分解において新規の分解経路であった。

一方、Rhodococcus sp. NDKK48株およびGordonia sp. NDKY76A株はエンジンオイルのナフテンを非常によく分解し、また、種々のシクロアルカンにも高い分解能力を示した。NDKK48株のアルキルシクロヘキサンの分解経路を解析した結果、本菌株はシクロヘキサンカルボン酸の芳香族化を通じて、アルキシクロヘキサンを完全分解していることが明らかとなった。