照明認識視空間に基づく新しいカラーマネージメント

PRASIT CUNTHASAKSIRI

PC,デジタルカメラ,プリンタなどの普及により,色彩を容易に扱う環境が整った.しかし異なるメディアで同じ色を再現することは難しい.さらに観察環境が変わるとその色の見え方も大きく変わる.この問題を解決するのがカラーマネージメントシステム(CMS)である.これまでのCMSでは,プリンタのCMYK値やCRTディスプレイのRGB値をCIE(国際照明委員会)のXYZ値などのメディアに依存しない測光値に変換し,色情報を授受する方式がとられている.しかし色の見えは観察者の順応状態に大きく依存するため,XYZ値が等しくとも同じ色に見えるとは限らない.この問題に対してCIEではCIECAM97やCIECAM02などの色の見えモデルを用いたCMSを展開しているが,適用できる観察条件は限定されており,さらなる改良の必要性が叫ばれている.一方これまでの色覚研究から,実環境における照明光への順応は,より高次レベルの視覚情報処理の関与が大きく,CMSについてもこれまでとは異なったトップダウン的なアプローチが必要であると考えられている.本論文は人間の照明認識メカニズムに立脚した新しいカラーマネージメントシステムを確立するための基礎研究に関する報告である.

(1)視覚系がどのようにして環境に色順応するのか,(2)順応状態はどのようにして色の見えを決定するのか.この2点について本論文は論じている.また,中心−周辺構造を持つ同時色対比刺激を用いて色順応を評価していることも本論文の特徴である.実験1,2では(1)の問題を扱っている.実験ブース内の照明光の色を白色に,中心刺激を無彩色に固定したまま,有彩色周辺刺激の大きさを変えて色対比の強さを測定した.周辺刺激が奥壁上にあるときは色対比効果は弱く,周辺刺激が奥壁から側壁や床面と天井面にまで及ぶと急激に色対比効果が上昇した.つまり空間を囲む三次元的な構造をもつ物体(壁)を見るとき,視覚系はその壁の色を照明光の色として知覚する.そしてその知覚上の照明光に色順応し,その結果,中心刺激の色が壁色とは反対色の色に見えたのである.このように物理的な照明ではなく,知覚上の照明光に対して順応することを明らかにした.実験3と4は(2)の問題に取り組んでいる.実験1,2同様,奥壁,側壁,床面,天井面のすべてが同色に塗られた実験ブースを白色の照明光で照明し,中心刺激の輝度を変えて色対比効果を測定した.中心刺激の輝度が低く反射物体として知覚される(物体色モードあるいは不自然な物体色モード)ときは,知覚上の照明光への色順応の影響を受けて色が変化した.一方,輝度が高く光源色モードとして知覚されるときは色は変化しなかった.これは視覚系の色順応状態に影響を受けるのは物体色モードの色であって,光源色モードの色は順応状態に影響を受けないことを示している.

以上の結果を基に新しいカラーマネージメントシステムの概念モデルを提案している.すなわち,ドキュメントの色情報に加えて,知覚的な照明光色あるいは視覚系の順応状態を記述するデータを付加して色彩情報を受け渡しし,色の見えのモードを考慮して色補正する方法である.