磁気浮上式遠心血液ポンプ内部流れの 数値シミュレーション

松岡 大輔

長期使用可能な人工心臓は,心臓移植に替わる治療機器として世界的に注目されている.日本においても心臓移植希望者に対しドナーが非常に少なく,次世代人工心臓の実用化に大きな期待がよせられている.従来のターボ型血液ポンプでは,ケーシング内に軸シール部が存在することで摩擦熱により溶血(血球破壊)や血栓形成が生じやすく,シール部での異物混入や血液が漏れる恐れがあることから数日間の使用に限られてきた.そこで,ターボ型血液ポンプの課題を克服し長期使用を可能とするために,本研究で扱う磁気浮上式遠心血液ポンプのインペラはケーシング内において完全非接触で浮上・回転する構造が採られている.なお,このポンプはドイツ,オーストリア,フランスにおける良好な臨床試験の結果に基づき,2007年に欧州での販売許可(CEマーク)を取得するまでに至っている.
このポンプは磁気軸受技術を応用していることから,インペラとケーシングの間には隙間が存在し,また,工学的には低比速度,低レイノルズ数の領域に属する大変特殊なポンプである.そこで,まず隙間流れが主流部やポンプ特性などポンプ全体に与える影響を明らかにすることを目的に数値シミュレーションを行った.その結果,隙間を有することによって,発生圧力の増加すること,主流部で損失の少ない流れになること,血栓生成を防ぐ"wash-out"効果が得られていることが確認できた.
また,このポンプのインペラは,インペラの変位による流体力と磁力による復元力・回転力の相互作用の結果,微少ではあるものの振れ回りながら回転している.仮に,振れ回り運動が大きいと溶血量を増加させ,ディフューザ壁との接触,さらには浮上位置制御不能に陥る恐れがある.そこで,インペラに作用する流体力のみに着目し,振れ回り運動のメカニズムを明らかにすることを目的に,ボリュートの断面積が異なる2種類のケーシングの計算モデルを作成し,ポンプ内部流れの数値シミュレーションを行った.その結果,両モデルともに原点に対してほぼ対称な平均圧力分布であること,圧力変動が分散していることを明らかにした.さらに,ボリュート形状によりインペラの振れ回り量およびポンプ特性において出口圧力が異なることを明らかにした.本論文ではこれらについての詳細を報告する.