他動的運動を用いた身体運動の動力学解析

谷口 祥平

スポーツなどに見られるように人間は,非常に複雑で巧みな運動を行う.その運動解析の研究は,スポーツや医療・脳研究など数多くの分野で,非常に重要な位置づけとなっている.一般に人体の運動解析では,運動中に発生する物理信号(加速度や速度などの運動データ,力やトルクなどの力データなど)や生理信号(筋電位や心電図など)から人間の運動を計測または推定する.従来,多くの研究者がそれらの信号を用いて,身体運動の研究を行ってきている.

身体運動解析は,ダイナミクスの観点からつぎの2つの方法に分けられる.1つは被験者が自ら動作する能動的運動における解析法であり,もう1つは,外力により被験者を運動させる他動的運動における解析法である.原理的な欠点はあるものの,多くの研究者は前者の手法により運動解析を行ってきた.一方,後者の手法は,いくつかの問題を解決することができれば,非常に有用な運動解析手法となり得る.

そこで本論文では,他動的運動を用いた運動解析における固有の問題を解決するための実験システムを提案する.まず,パラレルワイヤ駆動システムと繰り返し学習制御を用いた他動的運動時の関節トルク推定システムを開発した.本システムは繰り返し学習制御で高精度に軌道追従ができ,同一軌道時の関節トルクに十分な再現性があることを実験により確認した.目標軌道を与えたときに関節トルクを得られるこの構造は,ダイナミクスモデルやパラメータを仮定しないで逆動力学計算を解くことができることを意味する.次に,この推定した関節トルクは,人体の質量から生じる関節トルクと筋,腱,皮膚,関節の粘弾性ダイナミクスから生じる関節トルクなどのすべての成分が含まれたものであることが,他動的運動計測法の欠陥であった.そこで,本研究では時間軸変換の概念に基づいた関節トルク成分分析法を提案し,慣性や粘性などの発生源ごとに関節トルクを成分分解した.これにより,各成分の大きさを定量的に示すことができ,他動的運動における関節トルクの発生源ごとの定量的な評価が行えるようになった.最後に,本成分分解法により抽出した慣性による関節トルク成分のみを用いてパラメータ同定を行う手法を提案した.そして,従来のパラメータ同定法の全関節トルクから同定した慣性パラメータと本手法で同定したものを比較し,本手法の人体の慣性パラメータ同定の信頼性が高いことを実験的に示した.