指紋画像の色変化に基づく生体検知

田井 克樹

現在,指紋センサが普及しているが,一方で人工指の脅威が指摘されている.例えば家庭用パソコンのように,他者の監視下にない状況での指紋認証の実施に際しては,指紋入力と同時に指が生体であると検知する技術が望まれる.そこで,本論文では,指紋画像の面積と色の変化に基づく生体検知技術について報告する.

まず,白色LEDを用いた散乱光検出方式の指紋センサを試作し,指紋入力動作中の画像を連続して記録し,これらから指紋画像の面積と色の変化を検出した.37人の生体指による158回の試行と1本の人工指での実験の結果,両者の完全な分離に成功した.次に,6種類の人工指を作製して同様の評価を行った結果,人工指をすべて拒否する前提での生体指の生体検知の成功率は82.9%に低下した.

生体検知の信頼性を向上させるために,光源の設計について検討した.一連の入力動作における指の色変化が大きくなるように発光スペクトルを調整した結果,緑と赤のLEDを組み合わせた光源(ピーク波長での強度比がG:R=0.65:1)が有望であることが判明した.このDual-LED光源を用いて散乱光検出方式の指紋センサを試作して,42人の生体指と8種類の人工指による150回の指紋入力実験を実施した.その結果,これらの生体指と人工指を完全に分離することが可能な生体検知の指標をいくつか見出した.これらの指標は単独でも有効であるし,複数の指標を組み合せることにより生体検知の信頼性が更に向上すると考えられる.

更に,指の温度が指の色変化に影響を及ぼす可能性がある.そこで,指を氷水に入れて冷やし,指が体温に戻る過程で複数回の指紋入力動作を繰り返した.各々の入力データに生体検知のアルゴリズムを適用した結果,指の温度が15〜34 ℃の範囲で変化しても,生体検知には影響しないことを確認した.

また,従来の散乱光検出方式の指紋センサには,外光の影響を低減するために,指を覆う筐体が必要だった.筐体に指を挿入する動作は一般には受け入れ難く,商品の魅力を損なうものである.そこで,指紋センサの光学系を改良して,照度3,000 lxの環境でも,指を覆う筐体無しで正常に指紋入力および生体検知ができることを実証した.