重要文化財後背斜面を対象とした降雨に対する崩壊危険度評価システムの構築

里見  知昭

わが国では,梅雨期や台風襲来期の大雨に伴う斜面崩壊が多発する傾向にあり,斜面災害から生命や財産を守る必要がある。この対策は,ハード対策とソフト対策に大別される。しかしながら,ハード対策の実施には膨大な時間と費用を要するため,危険箇所の解消には到底達しない状況にある。そこで,ソフト対策を充実させることが望ましく,特に降雨に対する斜面の崩壊危険度を評価するシステムの構築が重要である。
本論文では,(1) 崩壊危険度の事前評価判定,(2) リアルタイム崩壊危険度評価を併せた評価システムを構築することを目標とし,この2つの評価方法について検討する。そして,崩壊危険度評価システムの高度化・効率化に向けた提案について議論する。なお,京都市内の山麓周辺には重要文化財が数多く存在し,観光客や周辺住民の強雨時の拝観規制に対する基準設定が求められている現状を考慮し,本論文では京都市の重要文化財後背斜面を対象とした評価システムの構築を目指す。
はじめに,素因に誘因(24時間雨量)を追加した数量化II類による崩壊危険度評価手法を提案した。その結果,崩壊危険度の評価精度は向上し,24時間雨量によって斜面の崩壊危険度をランク付けすることができた。
次に,重要文化財後背斜面に設置した現地モニタリングシステムを検討対象とした。本システムでは,降雨に伴う斜面崩壊の要因である,(1) 雨水の浸透による土塊自重の増加,(2) 地盤内の飽和度の増加によるせん断強度の低下,(3) 地下水位の上昇による浮力や浸透力の増加に注目し,降雨量,斜面内の含水量,地表面の変位量を計測している。これらの計測データを直接用いて崩壊危険度をリアルタイムに評価するため,主成分分析とニューラルネットワークを組み合わせた方法を提案した。室内土槽試験と現地斜面で検討した結果,降雨による斜面の安定性と崩壊危険度に相関性があり,避難勧告や解除のタイミングを客観的かつ具体的に設定できることが分かった。
最後に,崩壊危険度評価システムの高度化・効率化を図るため,地盤内の水分変動評価とモニタリングシステムの効率化に関する提案を行い,各提案手法が効率の良いモニタリングシステムを構築する際に有用であることを示した。