マイクロ波センサ用小形フェイズドアレーアンテナの研究

辻 正敏

民生用途のマイクロ波 ( MW ) センサにおいて目標とする物体の 2 次元位置情報を得るために、電子的にビーム方向を変えることができるアレーアンテナが求められている。本論文では、MW センサで利用される、小形で安価なフェイズドアレーアンテナの研究を行うことを目的とし、3つの提案がなされ、その研究成果が報告される。

初めに、マイクロ波帯におけるチューナブルデバイスとして注目を浴びている高誘電率材料 Bax Sr(1-x) TiO3(BST) を用いた移相器の研究を行う。移相器を設計するにあたり、 BST の誘電特性が必要になる。しかしながらマイクロ波帯での高誘電率基板に対する正確な測定法が報告されていない。そこで BST に対してコプレーナ線路 ( CPW ) を用いた新しい評価方法を提案する。基板上に作られた CPW に対して S パラメータの測定と電磁界解析により、誘電特性が正確に求められる。その後、 BST サンプルにバイアス電圧を加え、この評価法を用いて誘電率の変化を確認し、移相器の性能指数を検討した。その結果 BST は、位相変化量の小さな移相器としては有効であるが、MW センサへの適用にはさらなる工夫が必要であることが判明した。

つぎに、アレーアンテナ両端より交互に給電する新しい双方向給電法の研究を行う。この給電法により、移相器に必要な移相量は半分になり、移相器の小形化とローコスト化が可能となる。この給電法では、給電方向に応じてインピーダンスの変わる移相器 ( VIPS ) が必要になる。π 形ローパス移相器と 3 個のバラクタダイオードを用いた VIPS が提案され、設計され、試作される。 3 個の VIPS と 4 素子のパッチアンテナで構成された双方向給電フェイズドアレーアンテナを設計、試作し、放射特性を測定する。その特性は、ビーム走査角±30°、ビーム幅 24°、サイドローブ -9 dB、給電回路のサイズは 20 (H) × 38 (W) × 2 (T) mmである。

さらに、3 ビーム方向制御小形アンテナについて研究を行い、新しい給電回路を 2 つ提案する。一番目は、3 つのスイッチと 2 つのハイブリッドカプラで構成される ( HTBM )。二番目は、5 つのスイッチと HTBM のハイブリッドカプラを λ/4 線路に置き換えたマトリックス回路で構成され、前者より小形化できる。これらの給電回路により、アンテナ素子間の位相差 ±90° と 0° を得ることができる。HTBM と 4 素子パッチアレーアンテナが試作され、放射特性が測定される。その特性は、ビーム走査角 ±34°、ビーム幅 30°、サイドローブ -11 dB である。HTBM のサイズは、46 (H) × 68 (W) × 3 (T) mmである。

これらの 3 つの研究成果は、今後の民生用 MW センサに用いられるフェイズドアレーアンテナの開発に役立つものである。