取締役の資格と人選―取締役の資質の確保と会社経営の適正化を目指して

中村 康江

本稿は、法の期待する取締役会の機能の実効性を確保することによって企業活動の適正化を図ると言う観点から、取締役会の構成員である取締役の資格を担保し、望ましい取締役を選考するためのシステムのあり方に関して検討するものである。

取締役の資格について検討するためには、取締役としての資格を法により制限することの意味、そしてそのような制限が正当化される根拠と範囲を明らかにしなければな らない。この点については英国の取締役資格剥奪制度から有意な示唆が得られる。資格剥奪制度の特色は、過去の行動、とりわけ会社の倒産に関連する行為により、取締役として「不適任」と判断された者の資格を将来に向けて強制的に停止することにある。日本法においては、取締役の欠格事由が取締役の資格についてゆるやかな制限を設けた上で、各種業法が取締役の資格をより厳格に定めている。株式会社の取締役資格をより一層制限するためには立法に拠らねばならないが、英国法のように「倒産責任」として取締役の資格に制限を設けることは、日本においてなお十分でない物的有限責任会社における債権者保護のシステムを補強するためにも有意義と思われる。

取締役の人選は会社の命運にかかわる重要事項であるが、その人事権はこれまで事実上代表取締役によって掌握されていた。しかしながら、近時では、大規模公開会社を中心に、取締役会の独立化と監督機能の向上という目的のため、指名委員会を設け、取締役の人事プロセスの透明化を図る企業が増加している。指名委員会は米国大企業内の任意機関として、取締役候補者の選考について重要な役割を担ってきた。指名委員会は取締役人事に対するCEOの影響力を軽減するために有用と考えられていたが、取締役会の意思決定を効率化するための機関としての意義も認められている。指名委員会により取締役の選考および評価に関する基準が明確化されたと評されていることがその根拠である。指名委員会の一部は、取締役会および各委員会の運営に関する事項の決定等を通じて社内のコーポレート・ガバナンスにも関与している。他方、日本においては、委員会等設置会社制度の導入に伴い、指名委員会をめぐる議論が緒についたばかりである。今後この制度が機能するためには、米国における議論を参考に、手続の公正性と透明性の向上、取締役選考のための基準の整備、十分な情報収集等が果たされねばならない。