中国コンピュータ・ソフトウェア保護に関する実務の動向

呉 慧建

中国におけるコンピュータ・ソフトウェア保護に関する実務の動向を見極めるために、本稿は、中国の関連規定を日本著作権法と比較し、その特徴を整理したうえで、最高人民法院などの司法機関によって公布された典型事例の検討を柱に、実体法上の諸論点を比較法的視点から検討する。

第1章は、中国におけるソフトウェアの保護に関する諸規定を概観し、日本の著作権法上の諸規定との相違を析出する。

第2章は、事例の分析を通して侵害認定の手法及び証拠、最終ユーザーの責任にかかわる問題について検討を行った。

コンピュータ・ソフトウェアは、著作物として著作権法により保護される。著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」とされ、著作権の対象は、「表現」である。しかし、機能性が重視されるソフトウェアは、他の著作物と異なる性質を有する。今日のような情報化社会において、プログラム言語を用いるその「表現」よりも、むしろプログラムの「機能」或いはその「アイディア」が注目されるところとなっている。そこから著作物としてのソフトウェアの創作性と保護範囲の問題が生じる。これは、ソフトウェアの著作権侵害訴訟における侵害認定と密接な関係を有する問題である。ソフトウェアの著作権侵害の認定は、依拠と実質的類似性とを要件とする。実質的類似性とは、侵害者側のプログラムが、権利者側のプログラムの創作性ある部分に類似していることである。実質的類似性に関する中日の判断手法にはそれほど相違がない。通常両者のプログラムのソースコードなどの比較を通じて明らかにする。しかし、一方あるいは双方のソースコードが証拠として提出されなかった場合は、どのような関連証拠を収集して証明するのか、証拠にかかわる問題は極めて重要である。また、実質的類似性に関連して、プログラムのデータ構造を著作権の対象として認めるべきか否か、すなわちデータ構造の創作性とプログラムの「表現」の創作性についてどう認識すべきか、という問題が中日共通の課題となっている。

ネットワークの発達により、ソフトウェアの著作権侵害の態様が多様になってきた。海賊版を使用する行為や、正規版のソフトを複数のパソコンにインストールする行為が、権利侵害に当たるか否かについて、中日における著作権法の規定内容は異なる。中国のソフトウェア保護条例第30条の規定によれば、私的使用の範囲内であっても違法複製物にあたるソフトウェアを使用してはならない。これに対して、日本著作権法の規制対象は、「業務上」の使用に限定されるが、実際に最終ユーザーに対する侵害訴訟では、中国も日本と同様、「業務上の使用」者を訴訟相手とする。

第3章は、著作権侵害における救済措置について、事例分析を中心に、差止め、損害賠償を求める場合の要件や、損害賠償額の算定方法に関して、中日の相違を比較した。

中国著作権法及び関連規定は抽象的で厳密性に欠けるために、著作権侵害訴訟、とりわけソフトウェアの著作権侵害訴訟において、侵害認定にしても救済にしても、証拠にかかわる問題と法解釈のあり方は極めて重要である。